0人が本棚に入れています
本棚に追加
銃を手にして自分が強くなったと誤解した同世代、同人種の青年。スカジャンを着て、髪をワックス多めで逆立たせ、自分を大きく見せたいらしい。そんな青年が突如現れ、銃を突きつけてきたのだ。
顎を振って見せる。後ろを向けということだ。銃を前に言葉はいらなかった。
三幸は黙って後ろを向く。するとポケットを漁ってくる。すぐに財布が取られてしまう。表のバイト代を直前にもらっていた。裏のバイト代に比べれば微々たるものだが、自ら全うに稼いだお金を奪われるというのは顎に力が入るものだ。
カカカと歯ぎしりをする。その音に混じって何かが倒れたような音がした。それでも確かめる勇気などはない。するとポンと肩に触れられる。恐る恐る振り向くとそこに彼女はいた。たとえ女の子でもいきなりだったので驚く。そしてその場に崩れる。
青年は彼女の後ろで蛙が仰向けになったようにのびている。
「これ、あなたの」
そう言って奪われたはずの財布を勇は腰の抜けた三幸に手渡した。中身はちゃんと詰まったままである。「じゃあ」とも言わずにその場を去ろうとする彼女を情けない声で引き留める。
「ま、待って、ください」
そして何を考えたか、何も考えなどなく、手に持っていた物を差し出した。財布とビニール袋。差し出した後、今さっき手渡された物を差し出すのかと、妙に冷静な判断でビニール袋が残る。
「なにこれ」
最初のコメントを投稿しよう!