0人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
First Shot : Rat
A国 日本州 関東郡 ヨコハマ
工場が発する水蒸気が消えずに漂う早朝、4月の終わりだというのに色がなく冷たい海岸沿いの倉庫街。静かなその場所に一人、女が立っていた。
光沢のある赤いレザー生地のジャケットとスリットの大きいタイトスカート、小さな顔の半分を覆うような大きなサングラス、ブロンドの長い髪。これら鮮烈な色彩はコンクリートの中で警戒色となっていた。胸には意匠のようにリボルバー拳銃がホルスターに収まっている。その銃の名前は「Peace Maker」。
黒革の厚底ブーツを履いた足を肩幅に開き、何もせず立っていた彼女の髪が揺れた。
足音が辺りに響き始めた。コンテナの横、倉庫の窓や間の路地に影がうごめく。
しばらくするとまた静寂が場を包む。
口火を切ったのは紅の薄い唇。
「I hate Rats!」
両の袖からするりと出てきた黒い棒を掴む。それを勢いよく振りかぶってにして前方へと突き出すと、それは折れ曲がって拳銃へと変形した。
黒い作業服の男が自動小銃を構えてコンテナから出てくると、すかさず彼女へ発砲。
弾丸は倉庫の壁にあたって火花となる。もう彼女はそこにいない。
まるでフィギュアスケートのように歪な体勢で撃ち返し、男は銃弾に倒れた。それを皮切りに物陰から自動小銃や拳銃、散弾銃を持った男たちが湧くように次々と出てくる。
時にはバレエの連続回転で弾をばらまき、ブレイクダンスのように宙返りを決めて弾を避ける。フラメンコのポーズを模して撃ち切った拳銃を捨てるとまた袖から黒い棒が出て、それを拳銃へと変貌させる。
乱れて空中を漂っていた金髪が彼女の背中に寄り添うと、倒れる男たちの中で彼女はまた、たった一人で倉庫街の真ん中に立っていた。その目は哀れな男たちに一度向けられ、すぐに目を閉じる。そして、かっと開くと真上を睨む。
最初のコメントを投稿しよう!