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あいつが0個なんてそんなわけない。だって、学年の――ううん、学校の女の子の半数はあいつのことが好きだ。
今だってあちこちであいつの話題が聞こえてくる。
「どんなチョコが好きかな」
「手作りはダメだよね」
「そりゃそうだよ、倉敷君だよ?」
「カッコよくて優しくて、さらにお菓子作りもプロ級なんてホント凄いよね!」
「チョコの相談に乗ってくれるらしいから、倉敷くんちのお店に行ってみようかなー」
「いいね! 今日一緒に買いに行かない?」
わざわざ倉敷の家がやっているケーキ屋さんまで行って、倉敷との接点を作ろうと画策している子までいるぐらい。
「ばっかみたい」
あいつがチョコ0個なんてそんなことあるわけない。あるわけないのだ……。
そう言いつつも、スマホでアーモンドチョコのレシピを検索してしまう。
こんなことしたって無意味だって分かっているのに……。
「あ、これ美味しそう」
家にあるもので作れそうなレシピを見つけると、帰りにスーパーで買ったアーモンドを取り出す。
「べ、別にバレンタインとかじゃなくって私が食べたいから作るだけだし!」
カシャンカシャンと音を立てながら、レシピ通り進めていく。
「――でも、なんで私にあんなこと言ったんだろう」
手を止めて思わず考える。
倉敷と特別接点があるわけじゃない。
たまたま席替えで隣の席になっただけ。それもあと数週間でまた違う席に変わる。
話したことだって、隣の席になるまでは数えるほどしかなかった。あんな風に会話ができるような存在じゃなかった。それがどうしてこうなったのか……。
「気にしても、仕方ないか」
どうせ、倉敷がチョコ0個なんて有り得ない。だから考えるだけ無駄だ。
きっとあんなの倉敷の気まぐれに決まっている。もしかしたら明日になったら忘れてるかもしれないし。
「そうに決まってる」
型に流し込んだチョコを冷蔵庫に入れながら……私は悶々とした思いを振り払うように扉を閉めた。
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