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「それで?有紗ちゃんはどうして泣いてるのかしら?」
「あぁそれがねマスター。有紗って昔から料理とか苦手で、バレンタインチョコ作って彼氏に上げる度マズいって言われてさ。毎回こうして最終的には破局しちゃうんだって」
「ちょ!余計な事言わないでよぉ~!」
まさか全部バラされるとは思ってなくて、思わず恵の襟を掴んで前後に振る。
昔から何でもハッキリ言うタイプだったけど、たまに余計なことまで言っちゃうんだよなぁ恵は。
「あら。料理苦手なの?意外ねぇ~」
「うぅ……やっぱり私みたいな人って、料理とかお菓子作りとか得意そうに見えますよね……」
そう、だからこそ私と付き合った男性は皆。私のマズいチョコを食べて『なんかイメージと違う』と言って去って行くのだ。
「でも人それぞれだからね?アタシは有紗ちゃんが料理が出来なかったとしても、別におかしいとは思わないわよ?」
「弓弦さん……」
マジ天使。
「お~~い。いつまで見つめてんの?」
「え、あ!ご、ごめんなさい」
「ふふっ。いいのよ?」
あぁ弓弦さんって優しいなぁ……。女心も分かってるし。顔だって整ってる。
オネエでも弓弦さんとなら……。
「って、何考えてんの私!」
「どうしたの?」
「え、あっ。いや」
唐突に込み上げてくる恥ずかしさを誤魔化すように、ガトーショコラを一口齧り付く。
その味はいつも通り甘くて美味しい。
やっぱりこれも弓弦さんが作ってるんだよね……?
「そうだ弓弦さん!私にお菓子作り教えてくれませんか?」
「え?アタシが?」
「ちょ!いきなり何言ってるの有紗!」
恵の言葉にハッと我に返る。
いくら馴染みにあるお客さんだとしても、いきなりお菓子作り教えて!なんて言われたら、誰だって困るに決まってるのに。私ってば。
「す、すみません!今のは忘れてください!」
「いいわよ?」
「え?」
「アタシで良ければ、お菓子作り教えてあげる!」
「ゆ、弓弦さん……」
その時。弓弦さんがまるでウァレンティヌス様のように見えた気がした。
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