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「あ……もしもし?」
どうやら、電話だったらしい。
でも誰からなんだろう?本当は立ち聞きなんて良くないけど、気になって仕方ない。
「ふふっ、そうね。えぇ、えぇ。じゃあそこでお願いしようかしら」
柔らかな声。
どうやら電話の相手とは長い付き合いらしい。
「もしかして、友達と待ち合わせとか?」
なるべくバレないように隙間から顔だけを覗かせて、電話をする弓弦さんの姿を窺う。
左手にはマシュマロ、そして右手でスマホを持って話すその表情はまるでーー弓弦さんの事を考えている時の私の様。
いや、きっとそれ以上の感情だ。
「え?ふふっ……明日を楽しみにしてて頂戴。貴方の為にアタシ頑張るから」
『楽しみにしてて』『頑張るから』『明日』
その言葉の意味と、左手に持っているもの。そしてあの愛に満ちた表情。
きっと弓弦さんは、電話の相手の事をーー。
「いや、もうきっとその人と」
さっきまでお洒落だなぁとしか思っていなかったピンキーリングが、チリチリと目に焼き付いて消えてくれない。
「そっか……」
まだバレンタインは始まってもいないのに。私は……。
「ぐすっ」
勝手に流れ出す涙を拭いながら、私は一つのお菓子を手に取ってコンビニを後にした。
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