いつものガトーショコラ

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いつものガトーショコラ

私は、バレンタインデーという日が心底嫌いだ。 「お前の作るチョコは、マズい」 「なっ……」 毎回愛を込めて、手作りチョコをあげているというのに。帰ってくる感想は必ず『マズい』の一言。 挙句の果てには『わざわざ手作りしなくていいよ』なんて言われる始末。 「どうして?どうしてなのぉ~~!!」 「まぁ。確かに有紗は料理苦手だもんねぇ……それでお菓子作りなんて、無茶な話でしょ?」 「そんなことない!!というか、好きな人になら手作りで渡したいじゃん!?愛込めたいじゃん!?なのに毎回毎回マズいってなに!?嘘でもいいから美味しいって言ってよぉ~~……」 湧き上がる怒りと悔しさと空しさに、思わずテーブルに顔を伏せて、私は駄々をこねる子供のように泣き喚いた。 ここが行きつけの喫茶店ということも忘れて。 「ちょっ、有紗!しー!しー!」 「ぐすっ……」 涙で頬に張り付いたクルクルの茶髪を耳にかけなおしながら、向かい側に座る私の友人鈴野恵の視線に思わず周りを見渡す。 どうやら私の泣き声は、店内に結構響いてしまってたらしい。 視線が痛い。というか恥ずかしい。 「全く。悲しいのは分かるけど、時と場所は考えてよね?折角のお気に入りの場所なんだから」 「うぅ、ごめん」 「ほら」 「うっ……ありがとう……」 恵から差し出されたハンカチで涙を拭いて、手鏡を見ながら身だしなみを整える。 ニキビ一つない白い肌に、大きな瞳。他の人達に比べたら小さめの顔。そしてそんな可愛い顔を引き立たせるふわふわウェ―ブの茶色の髪。 大学でも『市原有紗はお人形のように可愛い』とか『付き合いたい人ナンバーワン』とか言われている……はずなのに。 今までしてきた恋が、続いたためしはない。 その原因が、料理またはお菓子作りが出来ないせいである。
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