日常、のちフォンコール

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約一年前、彼は異国ドイツの風を纏って颯爽と現れた。高級スーツがよく似合う長身で、誰もが見惚れるほど容姿端麗、頭脳明晰な男、桐島悠次はこの第一企画営業部の若手部長だ。ついでに言うと現在桜の彼氏。 二人の出会いは悠次の赴任初日に、部下の桜が負けず嫌いを発動し、啖呵を切ってしまうところから始まった。以降も何かにつけてダメ出しとプレッシャーを浴びせられる日々だった。しかし気がつくと側にいて、なんだかんだ頼れて信頼できる上司の認識に変わり、さらに一人の男性として気になる存在になっていった。結果的には向こうの強引さがきっかけで付き合うところまで発展した。あげく、秘書課でもないのに部長付き秘書を任命される始末。この人にかかればどんな無茶でも通るのか、とさえ思わせる強行だったが、それは意外な形で落ち着いた。 突然の辞令発表から数日後、少数精鋭である第一企画営業部の人員不足のため、部長である悠次も営業部員として仕事をするよう営業本部長からのお達しがあった。それも相まって今では桜も同様に営業の仕事に戻っている。 「一ノ瀬」 「あ、はい」 始業して朝のメールチェックを終えた頃、悠次が桜を呼び立てる。すぐに起立して、悠次のデスクへ近寄った。桜の直属の上司は変わらず悠次のため、同じ案件を二人で担当している。それに関する資料をパワーポイントにまとめるよう指示される。まとめやすいように要点をある程度付箋に書き出し、重要ポイントにはハイライトが引かれてあった。相変わらず何でもこなして完璧にできる人だなぁと桜は感心していた。口頭でいくつか指示を受けている途中に突然悠次のデスクの電話が鳴った。
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