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部長のお誘い
電話がかかってくるようになってから数週間後のある金曜日。オフィスにいた桜のケータイが震えた。メッセージのポップアップが悠次の名前を表示する。
『今日は定時に会社に戻る。
飲みに行こう』
(飲みに行こう、か。久々に誘われたなぁ~。“飲み”って言っときながらまたレストランだったりして……)
付き合う前にそう誘われてレストランへ連れていかれたことを思い出した。ここ最近仕事の話しかしていなかったので、少し気分が上向いた。待ってる、と返信して残りの仕事をちゃっちゃと片付けた。
「今回はちゃんと“飲み”でしたねー」
「何だよその言い方は。何回も来てるだろ。軟骨の唐揚げ没収すんぞ」
「あーダメです!それは私の大好物だから~!」
「俺もこっちのサラリーマンの生活が染み付いてきたらしい」
「成長したじゃないですか。庶民の味も知らないと、みんなから白い目で見られますよ~」
いい感じにお酒が入って饒舌になってきた桜のジョッキをふんだくると、悠次は眉根を寄せた。
「上司に向かっていい度胸だな、お前。ほんとにお前は口の減らない女だ」
「えー今上司面するのずるいですっ」
取り上げられたジョッキに手を伸ばしながら文句を垂れる桜に悠次は呆れた声を上げた。
「お前は成長しねぇな。上司に楯突くわ、酒に飲まれるわ。また記憶なくす前に帰るぞ」
通りがかった店員におあいそを告げると、桜の荷物もまとめ始めた。
「部長?」
「なんだ」
「お部屋行っていいですか?」
「そのつもりで誘ったが?金曜日だから明日のことを気にする必要はないしな」
「それは…」
なんとなく想像してしまった桜は酒で赤くなった顔をさらに赤くした。その様子を満足げに見て、悠次は伝票を受け取り会計に向かった。
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