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日常、のちフォンコール
澄み切った冬の空。街の街路樹は一様に葉を落として寒さにじっと耐えている。大通りから一歩中道に入り、オフィス街にとって深刻なビル風を受けながら、一ノ瀬桜は通勤する。唯一の救いだった太陽の光も、高いビルが立ち並ぶ堅牢な要塞の中には一筋たりとも差してはくれなかった。
「おはよう、一ノ瀬さん」
「あ、おはようございます、佐知川さん。今日もめちゃくちゃ寒いですね」
「今朝テレビで言ってたけど、最高気温一桁だって…会社休もうかと思ったわ」
「えー!一桁って…。お鍋食べたーい」
「ふふ。そこなの?」
通勤途中にばったり会った佐知川依子は同じ営業部の二年先輩。桜が配属された時のエルダー(指導役)をやってくれた先輩で、年もそこまで離れておらず気が置けない仲で、プライベートでも飲みに行くことがある間柄になっている。
二人で白い息を吐きながら出社すると、すでに部長は熱いコーヒー片手に仕事を始めていた。相変わらず早いね、そう桜に耳打ちしながら依子もデスクのパソコンを立ち上げ始めた。
桜も自分のデスクに向かいながら、書類に真剣に目を通す彼を盗み見ていた。
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