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静止した雪の夜に
その日降り積もった雪はいわゆる粉雪というやつで、まるで綿菓子みたいにふわりと柔らかかった。
大の字で寝転んだ僕の体を優しく包み、思い切り飛び込んだのに少しも痛くなかった。
見上げた夜空は雲も無く、風も無い。
それなのに、はらはらと降るこの粉雪はどこからやってきたのだろうか?
こんなにゆっくりと落ちる雪を僕は初めて見た。
「いやいや、違うよ。ゆっくり落ちているんじゃない。よく見てごらんよ」
側に立つ青年の声に促され、僕は今一度しっかりと、目の前の雪の1粒を眺めた。
「あぁ、本当だ。止まっているみたいだ」
「厳密に言えば、雪だけじゃ無く全てが止まっているんだ。右を見てごらん」
言われるがまま、目線だけを右のほうへ向ける。
あぁ本当だ。電柱にぶつかったピンクの軽自動車から立ち上る煙も、やはりピタリと止まっている。まるで写真か一枚絵のようだ。
「あれ?でも僕の口も目も、しっかり動いているじゃないか」
「ふむ」
僕の素朴な疑問を受けて、青年は顎に手を添えて考え込む。
「確かに。今まで深く考えたことはなかったんだけど、多分動かないはずのものは動けるんじゃないかな」
「あぁ・・・なるほど」
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