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高校生になって三度目のバレンタインデー。
私は朝から憂鬱だった。
下駄箱で色めき立って話している女子の集団を横目に自分の靴箱に向かう。彼女たちのものとは違い、なんのキーホルダーも付いていない私の学校指定の鞄の中には、昨日の夜遅くに完成したハート型のチョコが一つと数人の友達に渡す用のクッキーが入っている。
しかし、今年もハート型の本命チョコの方は出番がないのだろう。
「萌ちゃん、おはよう」
不意に後ろから声をかけられる。綺麗で透き通った、いつもの声だ。咄嗟に鞄の中のチョコを意識してしまう。
「おはよう。青葉ちゃん」
自分の意識を悟られないように返事をする。さらさらの長い黒髪に白い肌、足りないところや無駄な要素の無い整った顔立ち。青葉ちゃんはこの学校の誰よりも輝いて見える。
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