朝 7:55

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 ひときわ冷え込んだ二月の朝、とある私立高校の下駄箱スペースは妙な緊張感に包まれていた。 「「「……奴が来た」」」  親の転勤で冬休み明けに転校してきた「奴」。  長身で爽やかなイケメン男子。サッカーが得意で、編入試験も高得点だったらしい。だがそんな高スペックを鼻に掛けることなく、時折バカ話も披露する。一緒にいて楽しい、男友達として最高の「奴」。  そんな感じだったから、高校一年の三学期という中途半端な時期だったにも関わらず、彼はあっさりクラスに馴染んでしまった。  そして当然のように、女子たちも全員心を鷲掴みにされたわけで……。  男子たちがそわそわと不自然に見守る中、「奴」は普段通りの様子で下駄箱を開けた。  「奴」が取り出したのは、一つの小さな包み。彼は添えてあったカードをそっとめくり、キラキラした笑みを浮かべた。綺麗にラッピングされたそれは、そそくさとカバンに仕舞い込まれ、「奴」は軽い足取りで下駄箱を後にした。 「一個だけ? 漫画みたいに、チョコがなだれ落ちるのかと思ってた」  誰かが呟いたその一言で、ふっと魔法が解けたように喧騒が戻ってきた。  イケメンが、チョコレートを貰うのは仕方がない。問題は、どれだけの数の女子を「奴」が掻っ攫ってしまうのかだ。なのに、入っていたのは一個だけ。  その場にいた男子たちはまだ誰もチョコを貰っていないのに、どこかほっとした空気が生まれた。中には小さくガッツポーズをしている生徒までいる。だがそこに、茫然としたような声が響いた。 「『ツカネより』って書いてあった……」
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