朝 7:55

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 ツカネ!? そんな珍しい名前の生徒は一人しかいない。  男子全員の憧れともいえる二年Sクラスの女子、鷹野緯(タカノツカネ)。  小柄で色白、さらさらストレートの長髪。学力はいつも三位以内で、スポーツもかなりこなす。ただ、水泳など体育の授業は休みがちなので、もしかすると病弱なのではないかと噂されている。スレンダーで胸が少々寂しいが、これはもう好みの問題だろう。  はかない雰囲気の奥ゆかしい知的美人。それがツカネだ。クラス全員の女子からチョコを貰うより、ツカネのチョコが欲しい。  下駄箱に佇んでいた男子全員が慟哭した。 「「「バレンタインなんか、大嫌いだ!!」」」  その場に居合わせた女子は、後に語った。男子全員が血涙を流しているようだったと。  まあ、こんなのはただのやっかみでしかなく、よくある風景。彼らの怨嗟も、下駄箱の床に吸い込まれて終わる筈だった。  だが、「奴」……ヒロトへ向けて放たれた呪詛のような何かは、ある意味ちゃんと発動していた。おそらくこの時より少し前から。
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