序章「ゲーム(リアル)」

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 最早語りつくせぬほど混濁した思考とその中で燦然と輝く明瞭な邪念が男を柔和に包んだ。  そう歳はとってないものの数年で溜まりに溜まった男の猛々しさは早期的な解消を求めたが、  荒くなった動機を落ち着かせるために2杯のコーヒーを乾かすことに集中していたら少し平静を取り戻した。  右大腿部にいくつもの掻爬痕を残して……  (ここまでゲームが個人認証を追及してくるなんて……そしてこれが普通になりつつあるとは驚きだ……昔のフラッシュゲームなんかはオンラインで戦ったりできたけど登録と言えば自分の使うキャラの色を決めるくらいだったか……?)  と考えだして馬鹿馬鹿しくなる。  恐らく目の前にあるこのゲームは何かが異質であるのだということは確認の余地もないほど明確だったからだ。  個人確定登録と呼ばれるいくつもの応答を終えて、気付けば時計の針は先ほどから約半刻を経過したと告げていた。  1時間も経っていたのかと焦りながらパソコンのブースに戻るとそこには無防備ともとれるあられもない姿でウトウトと船をこぐ年下の少女の姿があった。 「ごめんね、待たせちゃって」  一瞬の間、いくつかの思考を逡巡した後、恐らく社会的に正当と言える選択を選んだ。     
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