電話ボックス

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電話ボックス

 深夜の帰宅途中、普段は静まり返ってる道で人の話し声のようなものが聞こえてきた。  辺りを見ると数メートル先に電話ボックスがあり、その中に通話中の人がいた。  今時電話ボックスを使ってるなんて珍しいな。こんな時間だし、スマホが電池切れで仕方なくとかだろうか。  そんなことを考えながら電話ボックスの横を通りすぎた瞬間、ふいに道の暗さが増した。  反射で振り返る。けれど俺の視界に電話ボックスは存在しなかった。  …まてよ? そういえば、この道に電話ボックスなどあっただろうか。  昨日までの帰り道を思い返してみるが、その記憶のどこにも電話ボックスなど存在していない。ただ、かなり前に聞いた話だが、この道路で乗用車が居眠り運転をし、道路脇の電話ボックスに突っ込んで、たまたま使用していた人が亡くなり、電話ボックスは撤去されたという話なら思い出した。  もしや、俺が見たのは…。  その答えに辿り着いた瞬間、背後から人の話し声のようなものが聞こえた。  誰かが喋っている。そして、立ち止った俺の視界の片隅がぼんやりと明るくなった。  声と明かり。これは間違いなく俺の後ろに…。  次の瞬間、俺は全力でその場から駆け出していた。  …あれからも、最寄り駅から自宅までの最短ルートなのでこの道は通るけれど、どこにも電話ボックスを見ることはない。そして、あの日のように帰りが深夜になる時は、遠回りになるとしても別の道で家に帰るようにしている。  亡くなった人には同情するけれど、俺はもう、本来見なくていい物も聞かなくていい声も聞きたくはないから。 電話ボックス…完
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