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「そういえば、お義母さんが編んだものを初めて頂いたときは、嬉しかったなぁ」
いつの間にか、昔のことを思い出していた。
「あのベビー用の靴下、どこにやったっけ」
何年も前に捨ててしまった気がする。「もう入らないから、しょうがないよね」と宣言した覚えがあった。
「あの靴下をもらったときは、みんなで笑ったなぁ。『まだベビーベッドも買ってないのに、お義母さんたら張り切っちゃって』って」
あのときだけだった。義母の手編みの品を嬉しく思ったのは。
静まり返った深夜の部屋で、ただ黙々とセーターをほどく。冷気がブランケットの上から染み込む。そういえば今晩は雪だったなと、早苗は天気予報を思い出した。疲れと、眠たさと、細かいものを集中して見ているせいだろうか、目が霞んでショボショボしてきた。いったん手を膝の上に休めて、ソファの背にもたれかかる。背をグーっと伸ばして、ギュッと目をつぶった。不意に、
「あー、疲れた。もう年だから、あまり無理したらダメね」
と聞こえてきた。
「えっ? 誰?」
ソファから飛び起きて辺りを見回す。しかし、やはり彼女の他には誰もいない。気のせいかな、と再びソファに身を沈めたときだった。またもや
「編み目も見えにくくなってきたし、この老眼鏡、合っていないのかしら」
と声がした。気のせいではなく、確かに聞こえた。しかも、聞き覚えがある声だ。
「腰も痛いわぁ。ちょっと休憩しましょう」
「えっ、なんで、お義母さんの声がするの!?」
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