義母の手編みのセーターをほどく夜

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糸をポンポンとほどくにつれて、編み目に込められていた想いがポンポンと弾けているのだろうか。一年も前に亡くなった義母の独り言が、まるで生きて隣にいるかのように聞こえた。 「キャー! ニノかっこいいー! チョンマゲ姿も似合ってるわー!」 (そういえば義実家のテレビ脇には、このアイドルが主演した時代劇のDVDが立てられていたなぁ) はしゃぐ義母の絶叫は、フェンス越しに好きな人を応援する女子高生と変わらない。思わず笑ってしまう。秘密の日記帳を覗き見ているようなバツの悪さを感じつつも、手だけは休まずにセーターをほどいていく。 早苗と義母は、仲が悪いわけではなかった。けれど二人の間には、どうしても遠慮があった。だから義母がアイドルに夢中だったなんて、早苗は今まで知らなかった。 (こんな声が聞こえるなんて、きっと私、疲れてるんだ。明日も朝から仕事だし、早く終わらせて寝よう) 「お団子たべる姿も可愛いわぁ~」 「フフ、可愛いですね。そういえばニノ、来年の映画ではコック帽かぶるらしいですよ」 「あっ、そこ気を付けて! 敵がいる!」 面白くなって話しかけてみたけれど、義母の声との会話は成立しなかった。録音された音のように、ただ一方的に聞こえるだけのようだ。
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