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「この先って、どんなお店がありましたっけ?」
「それも質問」
「できれば、長居できるお店がいいですけど」
「こんな天気じゃ、どこもお客さん、がらがらだよ」
「それなら、座敷があるところがいいですかね」
「また私に聞いちゃった」
「少しお酒でも飲めるような」
「この辺じゃ、お酒のないお店の方が探さないと見つからないよ」
チェーンの音を立てて追い越していく車を見送りながら、今日のつぐみさんはなかなか容易ではないなと思い直した。
普段であれば、いくつかヒントを出すだけですぐにつぐみさんが結論を出し、僕を引っ張って行ってくれるのに、今日はそうではないらしい。
とはいえ、待ち合わせの駅で電車に乗らず、雪の中を歩いてみようかと言い出したあたり、行きたいお店がまったくないわけではないようにも思える。
「大通りに出て、居食屋にでも入りましょうか」
「そんなところでいいの?」
「電車が遅れるかもしれないですし、つぐみさんは明日、早いでしょうから」
僕が言うと、つぐみさんは「はぁい」という子どもっぽい返事をして足の運びをゆるめた。
しだいに密度を増していく雪の粒が、街灯に照らし出されて地面に着地し、白い絨毯の下地を織り続けていく。
「来週の三連休は、どこか行きたいところはありますか?」
今度は僕が本題に入る番だった。
つぐみさんと交際を始めてそろそろ三ヶ月になる。
昨年のクリスマスは、まだ付き合い始めて日が浅く、予定も合わないまま逃してしまったから、今度のバレンタインの前後に、双方が分かるかたちで、特別な約束を取りつけておきたかった。
「僕は土日が休みなので、もし良かったら、旅行でもと思いまして」
そう言って彼女を見返すと、見破ったぞとばかりににんまりとした笑みを浮かべ、いつものお姉さん的なつぐみさんに戻ってくれた。
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