便せん

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今の世の中はLINEやメールが主流でしょう。 でも私は貴方におくる言葉は 店先で迷って選んだ便せんに書いて送りたいのです。 初めて貴方に会ったのは、桜舞う高校の入学式でしたね。 私は池の鯉のなかで1匹頼りなげに泳ぐ小さな赤い金魚を一人眺めていました。 「へえ、こんなでっかい池に一匹でなんだか寂しそうだな」 私は言葉を発していなかったのに、 思っていたことが耳から飛び込んできて、とても驚きました。 横をみると、背の高いあなたが池を覗き込んでいました。 胸には新入生に漬けられるリボン。私と同じリボン。 (ああ・・・同級生なんだ) 最初に貴方にもった感想はそれだけでした。 「お前も1年か、何組?おれは4組」 貴方は笑顔で私にそう語りかけてくれました。 (ああ、また同じことを思っている) 私は少し驚きました。 だって、初めてあった人と、こんなにも思考が同じだなんて。 「私も4組」 人見知りになんです。 だからそれしか言えなかったけど、声をかけてくれて本当は嬉しかったんです。 「そっか、俺は小沢 直(おざわ なお)よろしくな。」 そう言って差し出された大きな手。今でもはっきり覚えています。 「よろしく、私、初霜 結花(はつしも ゆいか)」 握ったあなたの手はあたたかくて、私は緊張もあって頬がほてって赤くなってしまったのです。 「はは、金魚みたいだな」 あなたはそう言って優しくわらってくれました。 男の子の笑顔を綺麗だと思ったのは生まれて初めてでした。 このことは今初めて告白します。 だって、口にするには恥ずかしすぎるでしょう? 今この手紙で告げたから許してください。 それから、もうひとつ、内緒にしていたことがあるのです。 わたしね、この時から貴方に恋をしていたのです。 金魚の話をして、自己紹介をして、手を握り合っただけなのに。 ヘンですよね。 でも、感じたんです。ああ、私はこの人が好きなんだって。 書いていてちょっと恥ずかしくなってきました。 今日のところはここでおしまい。 本当はもっともっと、貴方に伝えたいことがあるけれど、それは次の手紙に書くことにします。 では、まだ寒い日がつづきますから、体に気を付けて下さいね。  初霜 結花
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