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顔を覗き込まれているような気配を感じるも、今の私には目を合わせる余裕などなく、コクリと小さく頷くので精一杯。
「ちゃんと目を開けて歩かないと、危ないよ? ……ほら、夢」
言われて初めて気が付いた。
恐怖のあまり、無意識に目を閉じてしまっていたらしい。
確かに、目を閉じたまま歩くのは危ないので……。怖いけど……凄く、怖いけど。
薄っすらと瞼を開くと、徐々にその視界を広げてゆく。
ゆっくりゆくっりと、固く閉じていた瞼の力を緩めているとーー突然、ヒュンッと勢いよく何かが目の前を横切った。
その突然の出来事に驚いた私の目は全開になり、左から右へと走り抜けていったモノは一体何だったのかと、無意識に目で追いかけてしまった私。
その視線の先にはーー
懐中電灯に止まる、黒々とした変な虫。バタバタと動く、気持ちの悪い羽根。
「ひゃっ……やぁぁー!」
大の虫嫌いな私は、今までずっと我慢していたせいもあったのかーー
ついに叫び声を上げると、その場から後ずさった。
そして、足元にあった窪みにハマって体勢を崩すと、そのままドサリと尻もちを着いた。
もう、これ以上の我慢はできなかった。とっくに限界は超えていたから。
「いやぁー……っぅ……こわい゛ぃぃ……ぅぅぅっ……おうちっ……かえりたっ……いぃぃ……」
限界を超えた私は、とうとう泣き出してしまった。
泣きたくなんてないのに。こんな姿、皆んなに見られて恥ずかしいのにーー
そう思うのに、一度泣き出してしまったら止められなくて……。
「……ぅ……こわっ……いよっ……ぉぉっ……ゔっ……こわいっ……ぃぃ~っ……」
怖い怖いと、泣く事しかできない。
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