第1章

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 智也は、母から小言とも激励ともとれる説教に辟易≪へきえき≫していたが……。身長、体重では、智也の方が勝っていて、がっしりした肉体の持ち主だ。しかし、成績は、それに反比例していたのだった。クラスでの成績は、智也の成績は下だった。同級生が、休みを謳歌≪おうか≫していた時期……春休み、夏休み、短い冬休み。遊ぶこと以外好きでない学校に、智也は、毎日せっせと通っていた。補修授業を受けねばならないからだが、それほどにお粗末な成績であった。彼は、辛うじて商業高校を卒業できた。それが唯一、親を涙ぐませた親孝行でもあった。  祐樹の成績は、智也の成績とは、まるで、雲と泥との差であった。  祐樹は、学年でも上の上であり、そのせいで、高校からは二人別々の学校に通わざるを得なかった。  祐樹は、関西四天王と呼ばれる兵庫県にあるK大学に入学できた。しかも、最難関の経済学部に、見事に現役合格を果たしたのだ。  当然だが、経済学の勉学に真剣に取り組んだ。四年間の大学生活で、多くの書を読み漁った。カール・ハインリヒ・マルクスの「資本論」、ジョン・メイナード・ケインズの「雇用・利子および貨幣の一般理論」……など。  カール・ハインリヒ・マルクスは、ドイツ出身でイギリスを中心に活躍した哲学者、思想家、 経済学者、革命家。彼の思想はマルクス主義(科学的社会主義)と呼ばれ、二十世紀以降のイ デオロギーに大きな影響を残した人物だ。彼は、資本主義社会の研究をライフワークとし、主著「資本論」で、結実した。「資本論」に代表される経済学体系は、マルクス経済学、「資本論」に 代表される経済学体系をマルクス経済学と呼ぶ。  一方、ジョン・メイナード・ケインズは、イギリス生まれの経済学者で、二十世紀最重要人物の一人だ。いまなお、経済学者の代表的存在であり、有効需要にもとづいてマクロ経済学を確立させた。彼は、経済学の大家アルフレッド・マーシャルの弟子で、父であるジョン・ネヴィル・ケインズも経済学者である。
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