あなたはお菓子の声を聴いたことがあるだろうか

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 どんなに段取りよくこなしても、今日の作業が終わるのは23時。澤田にぼやぼやされてちゃ堪らないのだ。 「いえ、何も」  どうせ、チョコレートの会話に気をとられてたんだろう。 「澤田、今は集中してよ。あたしとあんたしかいないんだからね」  澤田は、はい、とトッピング用の戸棚に飛び付く。  予定の数をどうにかこなして、店の外に出たのが24時近く。澤田も私も自転車だ。  静まり返った商店街を抜け、小さな公園の側を通る。  疲れきっているのか、澤田はしゃべらない。私ひとりが、腰いたい、だの、ビール飲みたい、だのと弱音を吐く。 「今年も人様のキューピッドだー」  自虐が始まっても、澤田は 「ですねー」  程度の相づち。  それでも、別れたあとの家路が淋しくないのは、  無条件の信頼や、  尊敬や、  なんやかんやが彼の態度から滲んでいるからだろう。 「これも幸せに数えておくか」  40歳はもうすぐ。『クタクタになるまで働けること』も『幸せ』に数えておきたい。  世間一般はまだまだ、『独り身=不幸』という偏見のナイフで、私の幸せをちょっとずつ削ぐ。  シシケバブのでかい肉を削るみたいに。  だから、『幸せ』は、できるだけ寄せ集め、分厚くしておきたいのだ。  それを寂しいと思うなら思え!  星空の下、いつものように自転車をかっ飛ばす。コンビニの牛丼で空腹を埋め、眠りに着いた。  
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