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翌日、澤田の集中力が、さらに下がった。
「なにこれ、プラリネ作りすぎ!」
予定の倍の量が、目の前にある。
材料費はただではない。原価率というものがある。うちの店は、銀行も同業者も涙目寸前の数字を、毎度叩き出しているのだ。
青い顔のトフィは、
「……山崎さん、ちょっと相談があります!」
と切り出した。
「えー何? 数の変更はしないからね」
「実はクーベルチュール同士が……熱愛してまして」
クーベルチュールに熱愛発覚!
「勝手に溶けてろ」
テンパリングの手間がはぶけそうだ。
「それがですね、ホワイトとカカオ70パーセントのクーベルチュールが、自分達は愛し合ってるからなんとか一つのチョコレートにしてくれ、っていうんです」
澤田が、虐げられた子犬のように眉をさげる。
しかしパティシエも商売。遊びではないから、予定にないものは作れない。
「無理」
「1個でいいんです。溶け合って混じり合いたい、ってうるさくて」
うーむ。私は答えずに考え始めた。
一見、正気でない澤田の発言だが、実はこれまでに何度か、オリジナル商品の原点になっている。
漆黒のカカオ70パーセントチョコと、象牙色のホワイトチョコのクーベルチュールが、脳内をぐるぐる回る。
単純にマーブル柄にすることは、できなくもない。
ただ、それだと表面のデコレーション用になる。溶け合ってひとつになった恋人たちに包まれる、フィリングは肩身が狭いのでは。
何かいいアイディアはないだろうか、何か……
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