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バレンタインのお客さんは、真剣な顔の中に、純粋な欲望が見え隠れする。
「あ、俺にくれた人いました」
「は?」
「買ってすぐ、俺にくれたんです。ファンですーって。でもそれっておかしくないですか。俺が作ったの俺がもらっても」
「素晴らしい。お金を生む永久機関になるね」
けろけろと笑うと、澤田は首をすくめた。
接客トークで乾いた喉に、ビールが沁みる。
ふたりとも、あっという間に飲み干してしまう。
澤田は、じゃあ、帰りますか、と立ち上がる。香ばしい匂いのするアーモンドの粉を捨て、皿を洗いながら、
「俺、山崎さんの声も聞こえますよ」
コートに伸ばした手を止める。
「あたし、普通にしゃべるし。当たり前」
「そっちじゃなくて」
「……何が聞こえてるっていうのさ」
万が一にもありえないが、もしや、ホントに彼がエスパーで、私が日々胸に秘めているダークサイドが筒抜けだったらどうしよう。一瞬凍りついた。
「サワダー、サワダーって。言ってるの、自分で気づきません?」
ふっと私は吹き出した。なんじゃそりゃ。それは言ってない、大丈夫。
よかった……アニメキャラをオーダーするヤツが嫌いとかバレてなくて。
「それは、聞き間違えてるね。だばだー、だばだー、って言ってるんだよ」
ふざけると、
「ああ、上質を知る人の、って違いますよ。言ってます。サワダーっていつも言ってて、俺はそれが嬉しいんです。もう、そんだけ。帰ります」
お疲れした、と先に外へ出て行ってしまった。
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