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第1の殺人
「理事長。大変です」
「どうしました? この企画が大変なのは今にはじまったことではないですが」
「その、なんと言えばいいかわからないですが、有り体に言えば殺人事件です」
「ご冗談を」
「本当です」
「大変じゃないですか」
「だから、大変だと言ってるではないですか」
「誰かのいたずらではないんですか? やりそうな人いるでしょ」
「ああ、わたしも最初はそうかなと思ったんですが」
「ですが?」
「殺されたのが、その人なので」
「死んだふりですか?」
「いえ、本当に息の根が止まっています」
「生きてても死んでても面倒な人だな」
「まったくです」
東京都九王子市の中途半端な丘陵地帯にある総合セミナー施設の滞在者宿舎にて、死体が発見されたのは、初日の早朝のことだった。
夜半から降り積もった雪は小高い丘を埋め尽くし、すべての交通機関を麻痺させていた。
さらには電信線がすべて積雪の重みで切断され、外部との連絡は完全に途絶えていた。警察はもちろん、自衛隊や海上保安庁にも連絡ができない状態だった。
当然だが、携帯電話の電波も全く届かない。雪の影響はこの施設を孤立状態にしていたのだ。
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