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桃色の空気
「あっ、先輩いたよ!」
「今日もかっこいいな~」
「ちょっとぉ。見惚れている場合じゃないでしょ~。早くしないと部活始まっちゃうよ」
「受け取ってくれるかな~」
「大丈夫だよ。あんなに心を込めてつくってたじゃない。きっと受け取ってくれるよ」
「そうかなぁ」
グラウンド前の二人組はさっきからずっとどうでもいいやりとりを繰り返している。さっさと渡せば良いものを。
辺りを見渡せば同じような連中が点在している。男子は男子でそんな女子たちをチラチラと気にしていたりして馬鹿みたいだ。
僕はこの妙な空気から抜け出すべく、部室棟の階段を駆け上がっていた。
チョコレートを渡すだけのことにどうしてそんな騒いだり躊躇したりする必要があるのか。バレンタインデーなんて所詮、製菓会社が商品を売りつけるイベントじゃないか……。僕は大嫌いだ。
ため息をつきながら、僕は部室の扉に手をかける。そして部室の中を見て、もう一度、深いため息を吐いた。
グラウンドも大概だがこっちはこっちで大概だった。
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