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エピローグ
前言撤回しよう。
やはり彼女は彼女だった。
「何だよ、これ」
リボンや造花があしらわれている包装にわくわくしてしまった僕の時間を返してほしい。
つまるところ、袋に入っていたものはチョコレートなんかじゃなかったのだ。
「『口の中で転がすとゆっくりと溶けていく。ミルクチョコレートの甘い香りが辺り一面に広がった。』」
……まさか入っていたものがノートだったなんて。
そこにはチョコレートの味や渡そうと思った理由が綴られていた。全て手書きで、ところどころに書き直した跡がある。
彼女は超がつくほどの文学バカだというのに。さんざん理解していたはずなのに。くそ、してやられた! あの日の空気が僕を騙し、不覚にも彼女を普通の女の子だと思ってしまったのだ。
言いようのない敗北感に見舞われて、僕はうなだれる。
生まれて初めてもらったチョコレートは文字上のものでした、なんて誰が予想できただろうか。神様もびっくり仰天だ。
だが、試行錯誤しながら筆を進める彼女を想像すると、何故か笑みがこぼれた。
決して速筆でない彼女がこれを書くのと、彼女が本物のチョコレートをつくるのとでは、かかる時間の桁が違うだろう。さすが文学バカ、と。
ホワイトデーには何を送るのが普通なんだろうか? チョコレート? それともクッキー? どっちでもいいけれど、彼女のチョコレートよりおいしそうなものにしてやろう。
僕は新品のノートを取り出し、机に向かった。
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