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蔵の中
暗闇の中で男は目覚めた。
目が暗闇に慣れるのを待ち、立ち上がって辺りを見渡す。無機質な金属製の床と壁に囲まれたその場所はとても広く、鉄製の頑丈な箱を並べた頑強な作りの棚がずらりと並べられていた。
スーツの胸ポケットを見ると黒縁の眼鏡がささっていることに気がついた。掛けてみると、度が入っておらず、見え方は変わらなかった。
ふと、男の中に疑問が浮かぶ。――なぜ、ぼくはこれが伊達眼鏡かわからなかったのだろう? 自分の持ち物のはずなのに? いや、待て、そもそもぼくは誰なんだ?
呆然としていると、やや遠くから、固い物を打ち鳴らす音と、数人の男女の話し声が聞こえてきた。
不思議に思いつつも、そこへ向かうとさらにおかしな光景が現れた。奇妙な男女が三人、麻雀に興じているのだ。平安装束をまとった貴族風の男に、長髪に丸眼鏡をかけ傍らにギターを置いた青年、スレンダーな体躯を黒い高級感のあるドレスで包み、キセルをふかす美女。彼らはみな一様に若く見えはするのだが、そこそこの年齢を重ねているような貫禄も漂わせており、浮世離れしているように思えた。
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