レディビートル

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やがて車は港についた。てんとう虫はまだ目の前を飛んでいる。青年がついていけばわかるというので、わしは従った。コンテナの合間を縫って進む。すると倉庫が並ぶ寂しい一角に出た。そこで彼女を見つけた。彼女は薬品か何かで意識を失っているようだった。目を凝らすとすぐそばに男が一人、ナイフを握りしめ立っている。 なんと、嫌な上司ではないか。 あいつも彼女に懸想しておったんだな。わしの誘いに彼女がのったことを知り、あろうことか凶行に走ったのだ。今にも飛びかかりたい気持ちになったが、青年はわしに冷静になるようにとさとし、策を与えた。二人別々の方向から倉庫とコンテナを伝って挟み撃ちにするという単純なものだったが効果は覿面。無国籍アクションみたいな派手な活劇が繰り広げられることもなく、油断していた相手を取りおさえることができた。その夜は警察の事情聴取などでバタバタと過ぎた。もうビートルズどころじゃない。まあ、チケットは無駄ではなかったな。結果としてわしは彼女――聖子と固い絆で結ばれることができたのだから。 ああ、そうそう青年は警察が来る前に、車ごと姿を消しておった。当時は奇妙に思えたが今ならわかる。お前はあの青年にとても似ておる。 ところで今日は七月二日。ビートルズが来日して五十周年。そして、聖子の一周忌。もうわかっただろう。今夜手伝って欲しいことが。ほら聖子がてんとう虫の姿で帰ってきてくれた。報酬もちゃんとあるぞ。あの日使えなかったチケットは今もとってある。さあ、ビートルズに会いに行こうじゃないか。 いつの間にか晴之の周りをてんとう虫が一匹飛んでいた。その姿はなんだかとても懐かしく、暖かい。晴之はスバル360に乗り込みドライブに出かけた。
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