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レディビートル
整備工場に置かれた赤いスバル360を見るなり平田晴之は息を呑んだ。製造から半世紀を経たとは思えないほど、その軽自動車が若々しい姿だったからだ。
てんとう虫に例えられる愛らしい車体に、大きな窓から差し込む夕陽が反射し、眩ゆいばかりの輝きを放っている。見惚れる晴之に車体を整備した孝治が、満足げな笑みを浮かべた。孝治は平田整備工場の社長であり、今年で七十五歳。自動車一筋に実直に生きてきた祖父は晴之の憧れだ。
祖母の一周忌法要を終えたあと、手伝ってほしいことがあるからと工場に連れてこられた。そして見せられたのが、孝治が結婚してすぐに購入した愛車だ。祖父の仕事ぶりは完璧で、経験の浅い晴之がさらに手を加える箇所があるとは思えない。そう口にすると孝治は「お前の仕事は別にある。まずは年寄りの話を聞いてくれんか」と昔話を始めた。
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