1月

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1月

 「月に叢雲花に風」  私が気に入っているCDアルバムのジャケット裏を見ながら、彼が言った。  「ん?」  私は最小限の声帯の動きで彼と会話をする。  「6曲目。」  彼の方も、私との会話にあまり労力を使う気はないらしい。  それは、そのアルバムの6番目に収録されている曲の、曲名であった。  「いい曲だよ。」  私はソファに縮こまって座り、冷めかけた豆乳の入ったマグカップを持ったまま言った。  彼は、本棚に並べられたCDを何枚か左手に持っていて、右手にはさっきのCDを1枚持ち、そのジャケット裏から目を離さない。  「ふーん。確かに、いいね。」  「はは、聴いてないじゃない。」  いつもどおりの落ち着いた話し方で、まったく適当なことを言った彼が可笑しくて笑った。  「うん、じゃなくて、この言葉。」  彼は少し私の方を見ながら言った。  数週間前に買ったばかりのグレーのスウェットは、細身の彼には少し大きくて、鎖骨が見えた。  「月に叢雲、花に風?」  「そうそう。」  「うーん、まあ、綺麗な言葉ではあるけど・・・私はそんなに好きじゃないかな。」  「そう?そうなの?」  「だって・・・なんか、せつないじゃない。」     
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