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「そうねえ・・・全部好きだけど、やっぱり1曲目、8曲目もいいけど・・・6曲目も好きだ し・・・」
私は少し、声が大きくなっていただろう。たぶん。
「ふふ、好きなんだね、このバンド。」
「うん、特にこのアルバムはね、名作。」
「へええー、楽しみだな、明日。」
「ああでもね、好き嫌いは、別れると思うのよ。」
「ふふ、知ってるよ、マリが好きなのは、万人受けしないもんね。」
それは、ヴィジュアル系ヘヴィメタルバンドのアルバムだった。
年に一度か二度、この地方都市の小さなライブハウスにもやってくる。
「できれば、歌詞を見ながら、かみしめて聴いてね。」
「ふふふ、わかりました。」
彼は幾分力のこもった私の顔を見ながらそういうと、また視線をアルバムのジャケットに戻した。
そしてまた、静かに言った。
「僕もね、6曲目は、好きだと思うよ。」
私はすぐ隣にいる彼の方を見て言う。
「ずいぶん気に入ったのね、タイトルだけで。」
「ふふ、うん、最初はね、語感がいいと思ったんだ。」
「ああ、語感で言ったの。」
「それに言葉がね、綺麗な言葉しか使われてないじゃない。」
「まあ、そうね。」
「それに意味もね。」
彼がそこで一呼吸置いたので、私は彼の顔を軽く覗き込んだ。
「嫌いじゃないよ、僕は。」
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