0人が本棚に入れています
本棚に追加
一月
「月に叢雲花に風」
右手に持ったCDアルバムの、ジャケット裏に書かれているその言葉を、僕は読み上げた。
「ん?」
ソファに丸まって座る彼女は、声帯のみにわずかな力をかけて、声のような音を出した。
「6曲目。」
僕も、必要最低限の言葉を発して、CDジャケットの表の方を、軽く彼女の方へ向けた。
僕がつぶやいた言葉は、そのアルバムの6番目に収録されている曲の、曲名であった。
「いい曲だよ。」
彼女は先ほどよりきちんと声帯を動かし、少し、嬉しそうな声でそう言った。
僕は、このCDの内容がとても興味深く、ジャケット裏に羅列された曲のタイトルを読み続けていた。
読み方のわからない漢字が並んでいる。
6曲目のこのタイトルは、きちんと読めたし、綺麗な言葉だと思った。
「ふーん。確かに、いいね。」
「はは、聴いてないじゃない。」
「うん、じゃなくて、この言葉。」
僕は彼女の方に少し顔を向けてそう言った。
彼女はパステルカラーのもこもこしたパジャマを着て、あまりにも眠そうな顔をしている。
彼女は普段、モノトーンの洋服に赤いリップという姿が定番だが、パジャマだけはなぜかパステルカラーだった。
最初のコメントを投稿しよう!