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僕は密かに、彼女にはそっちのほうが似合うと思っている。
「月に叢雲、花に風?」
「そうそう。」
彼女が少し不思議そうに聞いてきたので僕が答えると、彼女は僕から視線を外して、前を向いた。
「うーん、まあ、綺麗な言葉ではあるけど・・・私はそんなに好きじゃないかな。」
彼女は途中で何かを思い出したような顔をして、それを隠すように少し、うつむいた。
僕は、彼女のそういう反応を予期していなかった。
「そう?そうなの?」
「だって・・・なんか、せつないじゃない。」
彼女は、うつむいたまま手に持ったマグカップを、ぐるぐる回していた。
彼女は毎晩温めた豆乳を飲む。
確か以前に「長生きはしなくていい」と言っていたけれど、健康には気を使っているらしい。
「うん?どこらへんが?・・・ああ、そうか、意味がね。」
「意味のこと言ってるんじゃなかったの?」
僕は、月も花も、叢雲も風も、すべて美しい言葉だと、ただ、そう思ったのだ。
「うん、意味はよくわかんないよ。でも、そうか・・・諸行無常ってこと、なのかな?」
「うん、そんな感じじゃない?」
「マリは、せつないと思う?」
彼女は一瞬僕の方を見て、少し、困ったような驚いたような顔をした。
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