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「……うちの召使が持っていた物を真似てみたのだけれど。気にいって貰えたかな」
「え。あ、りがとう、ございま、す、?は、はい。大丈夫です、はい、」
「そう。良かった」
彼は、また歩き出す。本当はもっと早く、大股で歩ける体躯だろうに。私のちょこちょことした歩幅に合わせて、ゆっくりと動き出す。
こんなことを思っている場合なんかじゃない、嘘をついている可能性がとっても高い、と第三者が見たら言うだろう。起きたら、持っていた服も無い。眼鏡も無い。見知らぬ豪華な屋敷の中で、喋って二足歩行するミミズクに、エスコートされている。まるで本当に、レディになったかのよう。現実から逃げ出したかった、と願っていた私にとって都合のいい逃避の映像。お姫様にでも、なったみたい。
優しくされることに慣れていなかった私にとっては、大きな変化より。こういう、小さい変化の方が怖くて嬉しいみたいだと自分でも驚く。状況が大きく変わっていると言うのに、私ときたら一番動揺していることが、この彼がどうして会ったことも無い私にここまで優しくしてくれるのか。その一点だけしか気にならなかったのだから。
「あの、」
「何だい」
「…どこ、へ?これから、その、……」
「朝に起きたら、君の世界では何をするんだい」
「……着替えと、朝ご飯、ですか?」
「その通りだよ。残念ながら、着替えの方はまた君の好みを買い物に行こうと思っているから。今は少しでも栄養を摂ることを優先としよう」
首を傾げながら、今言われた言葉を口元で繰り返す。
朝、
屋敷の中もそうだけれど、窓の外はまだ真っ暗だった気がするのに、朝、とは。時間の感覚もそうだけれど、全てに対する認識の感覚ですら齟齬が出ているかもしれない。ああ、だって、今の私ったら、何ていうこと、この人が優しそうだから、って理由だけで。それ以外の全てを疑えなくなっている。まるで、それこそ魔法にかけられたみたいで。
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