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「あのう、」
「何だい」
「……教えて、くれます?あ、あの、大丈夫な時でいいですから、その。…私に、何があったのか。自分でも今、わけがわからなくて、」
「おかしい人だ。わからないのに、一番わけがわからなさそうに見える私に聞いてしまうのかい?」
「だ、だって。……その。あなたは、優しいと、思うので。私と見た目は違いますけど、そう思う、ので。…何というか、それだけで、すみません、」
何回も聞いてごめんなさい、
そう呟くと。ふふ、と。自然に漏れたような微笑み。そんな声が彼から聞こえる。
「いいや、ありがとう。印象が良くて何よりだ。…謝らなきゃいけない私よりも、そう簡単に謝るものではないよ」
かぽ、かぽ、履き慣れない靴を懸命に絨毯の上で鳴らしては音を吸い込まれる。
行き着いた一つのアンティークな扉の前、空の方の手で彼がドアノブのレバーを握って、開いていく。
「さあ、席に着こう。私の家族を紹介するよ」
目に飛び込んできたのは、暖炉で燃える炎。宙から吊り下げられたシャンデリア、壁に一枚かけられているのは、私ではその素晴らしさに理解を示すまで時間がかかるだろう絵画が。
少し広めのお洒落なテーブルには、うっとりするほど細やかで美しいレースのクロスが敷かれていて。真ん中には、造花だろうか。淡い色であしらわれたテーブルフラワーが可愛らしく座している。その上にはこれまた綺麗でアンティークな食器に盛られた食事。
廊下を歩いている時も思ったが、この場所はところどころ違う配色はあるが基本は皆灰色か黒に近い色彩がとても多いようだ。
彼がそう言いながら、部屋の様子にどぎまぎする私と一緒にその部屋へ入ると。知らない視線が、幾つか私と彼に向かって来た。
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