夢猫

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「俺はタヌキだと言うんです。こっちはわけがわからない。詳しく話を聞いてみると、なんでもタヌキになる夢を見たと」 「ほう」 「深手を負った母タヌキが私たちの両親に赤子を託したと。それが自分だそうで、俺はタヌキが人に化けていただけだから、寿命が短いのは当たり前。むしろ十四も生きたら大往生だろう。だから進坊、悲しむな。お前は立派なタヌキ親父と呼ばれるくらい長生きしろよ。そう言って去りました」  悲しくはある。それでもその時のことを思うと笑みも浮かぶ。夢八も愉快げだ。 「それで、そないに見事な太鼓腹こさえたんでっか、白木はん」 「ええ、言いつけをしっかり守りました。思い残すことはありません。夢八さん、私を彼岸へ招きに来たのでしょう。そろそろ連れて行ってはくれませんか」  最後の一口を食べ終える。実に満足だ。  ところが、夢八は一瞬キョトンとすると、続けて大笑い。右手を大きく左右に振る。 「勘違いしてもろたら困りますわ。招きに来たんと違います。わては魔除け厄除けの黒猫でんねん。白木はんのご家族の願い叶えに、病よどっか行けーて、鍋こさえた次第。いわば病の払い猫ですわ。白木はん、まだしばらく現実(うつつ)の夢は続くんでっせ」  何とお礼を言えば良いのやら。しばし迷って、白木は手を合わせた。 「ご馳走様でした」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加