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「あっ」
梨呼の手から勢いよくプリントが舞う。視界がプリントだらけになった。
(もう! どうしてこんなときに!)
自然とカケルと出会ったときが思い出された。
(困っているときに突然現れた人……。怖くないと思えた人……)
でも今はいない。
泣きそうになりながら、プリントを拾う。拾ったプリントがまた落ちないように床に置きつつ。あと少し。
(あれ? 最初に持ってた分より足りない!)
床にしゃがみこんだままプリントが落ちていないか探していると、
「探し物はこれ? 拾ったよ」
(!)
カケルの声だ。
梨呼は勢いよく顔を上げた。予想通り笑顔のカケルがプリントを持って立っていた。
「プリントが豪快に舞ってたからさ。
ちょっとリコちゃんには重いよねー。手伝うよ」
カケルは自分で拾った分と、梨呼が拾った分の半分をひょいと抱えて歩き出す。
(スーパーマンみたいだ。なんでこの人はこんなに優しいんだろう。……でもきっと誰にでも優しいんだ)
そう思ったとき胸が痛んだ。
初めての経験だった。
この痛みはなんだろう。
梨呼は朝希が広大のことを考えるときにする切なげな表情を思い出した。朝希も胸を痛めていたのだろうか。
「リコちゃん?」
立ち尽くす梨呼にカケルが振り返って声をかける。
梨呼は慌ててカケルの後ろに駆け寄った。そして、
「あ、あの……!」
「ん?」
「ありがとうございます!!」
「ははっ、こないだからそればっかりだね。じゃ、今度俺が困ったときに助けてもらおうかな」
「はいっ!」
梨呼は力いっぱい返事をしてしまった。そんな梨呼にくすくすとカケルは笑っている。
でも、この後どうしていいかわからない。
(駄目だ。このままでは会話が途切れちゃう。何か話題を……!)
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