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王子様だって一人のお姫様になれる
1
「春ですなあ」
広大は朝希の席の前で呟く。その視線の先には、翔と梨呼が談笑する姿があった。
「あんたは年中春でしょ。先週の彼女とはまだ続いてるの?」
朝希の言葉に広大は冷めた視線になった。
「お前には関係ないだろ」
「……そうね」
朝希は今悲しげな顔をしているだろう。だから広大は敢えて見ない。
「姫を失った気分はどうよ? 王子様」
「はあ? そんなことを言いにわざわざ私の席まで来たわけ? 本当に嫌なやつね、広大」
「また新しい姫でも探すか?」
言って、広大は朝希の顔を見た。朝希はなんとも複雑な顔をしていた。
「寂しくないといったら嘘よ。でも、梨呼には幸せになってほしかったから、本当によかったと思う。新しい姫なんかいらない」
朝希の言葉に、ふうんと広大は言い、ニヤリと笑った。そして、わざと試すように言う。
「王子様にも今度は王子様が必要ってか? 難しいな。王子様の王子様」
朝希の目が怒りに細まった。
「いい加減にしてくれない? 私の気持ちを知っててからかうのはやめて。王子様は広大という王子様しか要らないのよ!」
早口に捲し立てた朝希の切れ長の瞳は少し潤んでいた。
広大の胸がざわつく。自分が言った言葉を後悔した。こんな顔、見たくないのに。
「だから、いいかげん諦めろって言ってるのに」
「そう簡単にできるなら、もう諦めてる! この、サイッテー無神経男!」
朝希はガタンと席を立ち、スタスタと廊下に出て行った。広大はその均整のとれた後ろ姿を見送りながら、舌打ちする。
朝希にはわざと冷たいことばかりを言ってきた自覚がある。なのになんで自分のことを諦めないのだろう。
(いっそ嫌ってくれたら楽になるかな)
広大の顔は晴れない。面白くない気持ちのまままた翔と梨呼の方を見た。
(アオハルかよ)
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