王子様だって一人のお姫様になれる

1/29
前へ
/94ページ
次へ

王子様だって一人のお姫様になれる

1 「春ですなあ」  広大は朝希の席の前で呟く。その視線の先には、翔と梨呼が談笑する姿があった。 「あんたは年中春でしょ。先週の彼女とはまだ続いてるの?」  朝希の言葉に広大は冷めた視線になった。 「お前には関係ないだろ」 「……そうね」  朝希は今悲しげな顔をしているだろう。だから広大は敢えて見ない。 「姫を失った気分はどうよ? 王子様」 「はあ? そんなことを言いにわざわざ私の席まで来たわけ? 本当に嫌なやつね、広大」 「また新しい姫でも探すか?」  言って、広大は朝希の顔を見た。朝希はなんとも複雑な顔をしていた。 「寂しくないといったら嘘よ。でも、梨呼には幸せになってほしかったから、本当によかったと思う。新しい姫なんかいらない」  朝希の言葉に、ふうんと広大は言い、ニヤリと笑った。そして、わざと試すように言う。 「王子様にも今度は王子様が必要ってか? 難しいな。王子様の王子様」  朝希の目が怒りに細まった。 「いい加減にしてくれない? 私の気持ちを知っててからかうのはやめて。王子様は広大という王子様しか要らないのよ!」  早口に捲し立てた朝希の切れ長の瞳は少し潤んでいた。  広大の胸がざわつく。自分が言った言葉を後悔した。こんな顔、見たくないのに。 「だから、いいかげん諦めろって言ってるのに」 「そう簡単にできるなら、もう諦めてる! この、サイッテー無神経男!」  朝希はガタンと席を立ち、スタスタと廊下に出て行った。広大はその均整のとれた後ろ姿を見送りながら、舌打ちする。  朝希にはわざと冷たいことばかりを言ってきた自覚がある。なのになんで自分のことを諦めないのだろう。 (いっそ嫌ってくれたら楽になるかな)  広大の顔は晴れない。面白くない気持ちのまままた翔と梨呼の方を見た。 (アオハルかよ)
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加