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風花坂の魔王
「面白味のない絵だ。つまらん」
長机に広げた鉛筆画を見るなり、先輩はバッサリ斬って捨てた。二カ月前に開催された駅伝大会の一場面を切り取ったスケッチ。強風吹きすさび風花が舞い散る過酷な状況に耐えながら、坂道を走るランナーの躍動と沿道で応援する観衆の感動がひしひしと伝わってくる。
鉛筆の濃淡のみで、巧みに競技の迫力を表現できる技量に私は素直に感心するが、自称天才にとっては落書きにも等しいらしい。
私の名は上原双葉。
葛飾北斎の再来とのたまう残念な部長がしきる美術部に入ってしまった薄幸の少女だ。さて、勘違い部長こと斎藤北斗という男子。「北斎と呼んでもかまわんぞ」と、ことあるごとにほざき、拒んだら拗ねるめんどくさい先輩ではあるが、学年トップのずば抜けた知力の持ち主でもある。だから私は友人のお悩み解決に、イヤイヤながら先輩を頼ることにした。
「いえ、評価を聞きたいわけではありません。この絵には謎があるんです」
「それを早く言え、双葉くん。俺は謎解きが三度のメシより創作意欲の源になるのだ」
妄言を無視し、私は事情をおおまかに説明する。
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