218人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「真面目な姫井先生が会議中に気を取られるほどの悩みがあるのであれば、聞いておいた方が良いと思いましてね。いえ、言いたくないことなら良いのですよ。プライベートの話であれば立ち入るつもりもありませんしね」
私の言葉に姫井先生は一瞬視線をさまよわせました。その表情からは、深刻な悩みというよりは、どこか――そうですね、気恥ずかしいという表現が良いでしょうか。大事に取っておいたお菓子の隠し場所がばれてしまった、そんな様子に見えます。
「仕事のことではないんです……すみません。社会人失格ですね……」
ぺこりと頭を下げて、そのまましょんぼりと肩を落としてしまいました。
「いえいえ、たまにはそういうこともありますよ。でも、些細なことでも私はいつでも相談に乗りますからね」
「はい……ありがとうございます」
そう言って眉尻を下げてはにかんだ後、おそるおそる私に尋ねてきました。
「では、ひとつだけ訊いても良いですか」
「はい、なんでしょう?」
「田貫先生は、ホワイトデーにどういったものをプレゼントされますか?」
「ホワイトデー、ですか……」
こくこくと頷いて、真剣な眼差しで私の答えを待っています。なるほど、なるほど。
「姫井先生はバレンタインデーにチョコレートを貰ったということですね?それも、とても大切な方から」
「えっ……あ……」
最後の私の一言で、かぁっと音がしそうなほど勢いよく、小さな顔が真っ赤に染まりました。
最初のコメントを投稿しよう!