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第1話
窓から差し込む夕日に朱く染まる教室を、立ち慣れた教壇から見渡す。窓枠の細い影が、ずらりと並ぶ机の上に色濃く線を描く。日中のざわめきは嘘のように消え去り、今日という日が普段と何一つ変わらないかのような顔を見せている。三年後、再びここに立つことがあるだろうか。そんなことを考えながら、息をついて教室から一歩外へ出た。
廊下は教室よりもさらに無機質で素っ気ない。昨日生徒も教員も総出で磨いたばかりなのに、灰色の廊下はすでに薄汚れていた。今日の昼間は風が強かったから、砂埃が舞い込んできたのかもしれないし、いつも以上の数の人が行き来したせいかもしれない。僕はうっすらと残る足跡の上をたどるようにゆっくりと歩き出す。
視線の先に、鮮やかな赤色が一筋見えた。卒業証書を入れた筒を留めるリボンだ。窓のすぐ下に落ちたその赤色だけが非日常的で、今日が卒業式の日だったということを主張しているように見える。そのまま打ち捨てられてしまうのもなんだか切なくて、拾い上げて外へと埃を払ったとき、向かい側の校舎の明かりと人影が目に入った。
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