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ああ、申し遅れました。わたくし、教頭の田貫と申します。タヌキなんて名前ですが、年齢の割に身体は引き締まっていますし、髪は少し白いものが混じり始めていますが、一回り年下の高橋先生よりはふさふさと豊かなものです。背も同世代の中ではずっと高い方で、他所の高校に行ったときなんかは若い女性の先生方に「素敵なおじさま」だなんて言ってもらえるんですよ。
「田貫教頭?」
おっと、話が逸れました。姫井先生が不思議そうな顔で私を見ています。黒々とした瞳で上目遣いに見られるのも、なかなか悪くはないですね。でも今はそんなことよりも、聞いておかなければならないことがあります。
「おてんば姫ちゃん、何か悩み事ですか?」
「え……」
あれほど顔に出ていたというのに、本人は全く気づいていなかったのでしょうか。この三年間で、生徒たちの前ではそれなりに格好がつくようになったと思っていたのですが、まだまだ修行が足りないようです。
「会議中、心ここにあらずと言った感じでしたが。こんな顔をしていましたよ?」
私は先ほど姫井先生がやっていたように腕を組み、目をきょろりと動かしてうーんと唸って見せました。そうそう、眉間にしっかりとしわを寄せて。
「す、すみません……」
「いえ、怒っているわけではないですよ。今日は村田先生の愚痴大会のようなものでしたから」
私がおどけて言って見せると、姫井先生もくすりと笑いました。そんな表情はまだ学生のようにも見えます。
「それで?」私はまだ肝心なことを聞いていません。
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