【番外編SS】春の訪れを告げるもの

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「でもね、逆に姫井先生は、チョコレートをもらっただけでこんなにも悩んでいる。それはチョコレート自体が高価だとか、単純にチョコレートが好きだとかそういうことではなくて、その方が姫井先生のことを想って何かをしてくれた、それが嬉しくて、その心に応えたいと思ったから悩んでいるのではないのですか?」  完全に推測ではありましたが、先ほどの反応を見てもあながち外れというわけではないでしょう。 「先日の卒業式でも、生徒たちから小さな花束をもらったでしょう?でも花束そのものではなくて、先生にありがとうと伝えたい、生徒たちのそんな想いが姫井先生の気持ちを揺さぶった。それと同じことではないでしょうか。」  私は姫井先生のほうを見てはっとしました。彼は大きな目に涙をたっぷりと溜めて、今にも溢れ出しそうにしながらうんうんと頷いていました。そうでした、卒業式当日も同じような表情で、懸命に生徒たちの名前を読み上げていましたね。職員室で、花束を抱えたまま堪え切れない涙をぽろぽろと流していたのを思い出しました。初めて生徒を送り出して、ほっとしたのと寂しいのと、半分ずつといった感じだったのではないでしょうか。 「何より気持ちが大切、ということがわかりましたか?」  はい、と呟いて目元を拭い、私に向き直りました。     
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