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第2話
「てっきり生徒だと思いましたよ、あのときは」
ふふ、と笑いながら喜志が椅子から立ち上がった。僕も知らなかった。彼は今でも珍しい、男性の養護教諭――いわゆる保健室の先生だった。
僕を横抱きにしたまま職員室の前を横切り、廊下を進み、保健室に着く頃にはきっと、僕のあだ名は決まっていたのだと思う。
「姫井先生のおかげで、私までいまだに教頭から『騎士君』なんて呼ばれるんですから」
喜志と姫井、騎士と姫。決して小柄というわけではない僕を抱えて姿勢よく歩く姿は、確かに映画で見た騎士そのものだった。なぜそれを僕が知っているかって?僕が入学式を諦めて処置を受けている間に、僕たちの写真があっという間に出回ったからだ。僕のことも喜々として『おてんば姫ちゃん』なんて呼ぶ教頭が、実は写真を撮った真犯人なんじゃないかとにらんでいる。
「そんなところに立っていないで、座ったらどうですか。コーヒー淹れますから」
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