大雪前夜

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「今夜から週末にかけて、西高東低の気圧配置が強まり、全国的に大雪となる見込みです。」 天気予報の女性が吹雪に襲われる雪だるまのアイコンを日本列島の真ん中にどん、と置く。無表情で右に左に揺られている姿はどことなく滑稽だ。 人の密集地では僅かな雪が降るだけで大騒ぎらしい。 電車が止まるから時間に余裕をだとか、足元が滑りやすいから気を付けましょうだとか、いちいちテレビが世話を焼く。 はっきり言って、雪は嫌いだ。 嫌いと言うと語弊がある。要は見飽きた。 真っ白いだけで面白味がない。 美しいだけで現実味がない私と同じだ。 そう、私は、一人になった。 あの恋から一体どれだけ経ったのだろう。手に乗る雪を眺めて、冷たい息を吐く。 時間も居場所も名前も何もかもなくなった。あるのは私と記憶といつ手に入れたのか分からないテレビだけ。 「多いところでは30センチ、平野でも積もる場所があるでしょう。」 今この時代に、私を知っている者がいるだろうか。 戸を叩けば開けてくれる者がいるだろうか。 障子さすりが聴こえる者がいるだろうか。 暖まりゆくこの地で、私はどれだけ生きていられるだろう。 否。感傷に浸るなど怪異らしくないな。 誰に知られずとも、聞こえずとも、消え果てるとしても、私は発たねばならぬ。それが私だからだ。理由など他にない。 人は雪が降る期間を冬というらしいが、さて。 「なおこの天気はしばらく続くようです。日本海側を中心に、各地で警戒が必要です。」 さて行こうか。 例え昔話に埋もれてしまっても止まない。 雪があるなら、私もそこにある。 「以上天気予報でした。」 私が雪女として存在する限り。
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