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時間は極めて穏やかに進んでいった。
ミナミからの連絡は一向になかった。西君はそのことについては何も言わなかったので私も何も言わなかった。新しい朝が来たときにはもう、部屋のどこにもミナミの残像は残っていなかった。おろしたてのワイシャツのようにぱりっとした、正しい朝だ。西君はストライプのスーツを着て仕事に出かけ、一日に何度も素敵な笑顔でにっこりと微笑んだ。ミナミがいなくなってからの西君の表情はとても穏やかだった。時折ちらつく、張り詰めた鋭さや怯えが失われ、どこまでも柔らかくて解き放たれていた。
私は会社や家や街角で時々ミナミのことを考えた。そしてミナミの髪を揺らす風や、彼の上にある空のことを思った。
ミナミはきっと穏やかに微笑んでいるだろう。西君のように。
あの鋭さが失われて、ただふんわりと微笑んだミナミもきっととても魅力的だ。きっともう海の夢も見ない。発作的に延々と話し出すこともない。それはおそらく本当のことだった。そしてそれらのことを祝福してはいけない理由も私には思いつけなかった。西君にも思いつけなかった。誰にも思いつけなかった。ミナミがいなくなった後も街は毎日規則正しく朝を迎え、昼を通り過ぎ、夜に溶け込んでいった。
そんな風にして一日が過ぎ、一週間が過ぎ、半月が過ぎる。風は少しずつほのかに香る春の気配を運ぶ準備を始めたようだった。相変わらず西君は微笑み、私は時々ミナミと風と空のことを考え、人々は駅と交差点に集い、絶望したり希望に溢れたりを繰り返した。
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