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だから今こんなにも僕が不確かなのは、ミナミを案じるからではない。
僕にとっての現実は、単にここにミナミがいないという事実だけだった。それ以上でも以下でもない。
僕は深く悼む。
ミナミをではなくて、ミナミを失った僕自身を。
ミナミから解き放たれた僕自身を、深く、深く悼む。
眠りにつこうと目を閉じているが僕の瞼の重みは正しくない。部屋の暗闇の色がやさし過ぎる。
夜が引いていけば、自分が自然に微笑むことができると僕は感じる。それは直感よりも確かなものだ。
望むと望まないとに関わらず、僕は解き放たれたのだ。ミナミの手で、ミナミから。
ミナミの行動力に取り残されるのはいつも僕だ、と可笑しくなる。
そうして眠りにつく。これまでなかったような、穏やかで、やさしい眠りに。
「言ったとおりだろ」
得意げなミナミの声が響いたような気がし、やがて僕は静かな闇に満たされる。
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