Ⅲ章 ミナミ(スマートな家出少年、語る。)

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おれが言うのもなんだけど、おれの兄兼保護者であるところの宏はちょっとずれてる。 受験前の三者面談でもいつもどおり居眠りするし、おれが結構な進学校を志望しているということよりもその学校の近くにコンビニや飯屋があるのかとか、おれはブレザーが似合わない(らしい)からガクランの高校を選んだほうがいいとか、そんなことばっかり心配する。 それも本当に真剣に、眼の色変えて心配するのだ。 おれは自分もそんなにまともな人間だとは思わないけど、宏のそばにいると自分はかなり一般的な、常識的な人間なんじゃないかと痛切に感じずにはいられない。 そうあることは別に自慢すべきことでもないが、実際にはこれほど何の脈絡もない膨大な量の「常識」に溢れかえった世界で暮らしているのだ。 自分の感覚や直感が何らかの指針を持っているという自覚なしにこの空間を泳ぎ続けることはもはや不可能に近い。 そう思えば、たとえ退屈と凡庸のオマケがついてくるとしても、最低限のレベルで「まとも」であるに越したことはない。 何の話だったか。 そう、おれの兄であり、保護者でもある西宏は、ちょっとずれてる。
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