オランジュショコラ

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オランジュショコラ

初めてのバレンタイン。 付き合ってやっと恋人らしいイベントを出来たのがこの日だった。 小さめの紙袋の中には綺麗にラッピングされた箱。 料理が苦手な君が作ってきてくれたのは、オランジュショコラ。 「オレンジにチョコレートを掛けただけ。」 そう言って照れ隠しなのかそっぽを向く君に 「食べて良い?!」と聞く。 君は恥ずかしそうに小さく頬を染めながら頷いた。 「いただきまーす!」 チョコレートもオレンジも好きな俺だけど、何よりも君が作ってくれたという事が嬉しくて顔のにやけが止まらず、声も間延びしていた。 その時のオランジュショコラの味は今でも覚えている。 口に入れた瞬間はオレンジの爽やかさと、チョコレートの甘みが口に広がる。 ...そこまでは良かったんだ。 咬むと何故か凄く酸っぱいオレンジに焦げたような苦いチョコレート味。 思考も動きも全てが停止するほどの衝撃だった。 「…どう?」 固まってしまった俺を心配そうな顔で覗き込んでくる君。 「えっとね、不思議な味がする。」 「ふ、不思議な味?」 美味しいかまずいかで表現できるようなものでは無くて、でもどう表現すればいいのか分からなかった。 その答えは君を混乱させてしまったみたいで、困ったような焦っているような、悩んでいるような、そんな表情をしている。 「一口食べてみる?」 手にしたオランジュショコラを君に差し出すと躊躇いながらも口にする。 噛じったのを見届けると一瞬にして顔色が変わりうな垂れる君に思わず笑いが込み上げてしまった。 「笑いごとじゃないよ。」 「ごめん。でも、これはこれでいいんじゃない?」 「良くない。」 「美味しいよ。」 「美味しくない。」 言い合いのようなやり取りをして暫く君は落ち込んでいた。 "料理が苦手なのも知ってるし、俺はもらえただけでも嬉しいからそんなに気にしないでいいのに。" とか言っても、きっと納得しないんだろうな。 このままじゃ二度と作らないとか言い出しそうだったから君の機嫌を損ねないように言葉を選びつつ次の約束をする。
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